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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「……これは重態だ。鏃に毒を塗った毒矢であったに相違ない」
水滸の寨は、このため、一同色をうしなった。さっそく宛子城の病房に入れ、金創の手当やら貴薬を煎じて飲ませるなど、日夜の看護に他念もない。しかし晁蓋の息づかいは、刻々悪化するばかりだったし、加うるに、林冲、徐寧、呼延灼らの部隊も、総大将を失った結果、支離滅裂となって、ぞくぞく、敗戦の戦場からここの泊中へ引きあげていた。
「……すまなかった。賢弟たちの忠告をきいていたら、こんなことはなかったろうに」
そうした一日のこと。
晁蓋は、身うごきもならぬ体のまま、にぶい眸で、枕頭にいた宋江と呉用の顔を見あげ、そして虫の息で……。
「あとを……あとをひとつ、よろしく頼む。……そして誰でも、この晁蓋を射た矢の主を、つかまえたら、その者を梁山泊の次の盟主に立ててやって行ってくれ給え」
と、遺言した。
抜きとったその矢は大事にしまってある。後日のためにだ。矢柄には「史文恭」の三文字が彫ってあったのである。
「総統、しっかりして下さい。そんなお気の弱いことでは」
「いや、もうだめだ。人には天寿がある。わしの天寿はもう尽きたらしい」