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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「やっ。雲水じゃねえか、てめえは。誰に断わってここへ来た」
「来てはいけないのか。あっ待った。そこの女子。いずれおまえは、里から攫われてきた人妻か娘だろう。あぶないよ、退いていな」
「なに、あぶねえと」
そこは悪と悪。眼を読むのは迅かった。
崔が起ったと見えたとたんに、その手から水の走るような一刀が智深の胸先三寸の辺を横に通った。かわすまでのことはない。智深の錫杖は傍らの丘小一へ向って一つぶんと旋る。丘は退がって、これも腰の一刀を見事に抜いた。気合い、眼光、いずれも智深に劣る者とは見えない。
だが、恐いもの知らずの智深である。また、かつて一度でも不覚をとったためしはない。「おううっ」と彼の満身が吠えたのも久しぶりだ。――ござんなれという構え。
じりじり、その彼を挟んで、二刀の切ッ先は寸地を詰めつつ迫ってくる。まるで刀の先に眼がついているかのごとく、智深の毛ほどな動きも見のがさない。「……はてな?」智深は少し汗を吹きはじめた。「腹のへッているせいか?」いや、そうでもなかった。剣気というのか、一種の精気が呪縛をかけてくるのだった。智深はやっと自重しだした。