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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「そうお礼ではいたみ入りますよ」

「ふン。真にうけてるよ、この人は」

「どうか、ゆっくりと、今夜一ト晩は、噛みつくなりとも舐めるなりとも、痴話口説のかぎりをおやりなさるがよい」

「よけいなお世話というもんよ。……そんな粋に気がつくなら、おまえさんこそ、さっさと消えて行ったらどう?」

「なるほど、そいつア一本参った。……では安道全先生、また明朝」

と、眼で念を押しながらひきさがった。男として胸くその悪さといったらないが、ここが我慢のしどころと、婆やにまで、小馬鹿にされされ、火の気もない小部屋にもぐって、寝込んだのだった。

すると、ま夜中すぎである。いちど、しいんと寝しずまったはずなのに、どこかで人のささやく声がする。そして中庭越しの向うの部屋には明りが灯いた。

「……はてな?」

油断のできる体ではない。張順は中庭へ潜んで窺ッていた。情人でもないらしいが、酒肴が運ばれてゆく。客はつまりこわもての客とみえ、婆やもなかなか気をつかっている。

「あら、いやだ。張旺さんたら、妬いてるんだね。いいえ、巧奴姐さんは、すぐ来ますからさ」

「だれだい。奥へ来ている旦つくッてえな、巧奴の情人か」