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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「いいや」柴進は顔を振った――「まずいでしょう、いい機会ではありますが、ここはその場所でない」
すると、このせつな、どこか別な部屋の方で、
「あっ、何者だッ」
という大喝と共に、どたんと、床を打ったような響きが聞えた。
これは、天子の侍者として、廊のそとにいた楊大臣が、何気なく一室の扉をあけてみたところ、そこに大酔した李逵がふンぞり返って寝ていたので、驚いてとがめると、とたんに、躍り起った李逵が楊大臣の巨きな体を、いやというほど床へ叩きつけたための物音であったのだ。
「しまった」
宋江と柴進とは、とっさに、やかたの外へ走り出したが、時すでに、李逵は楊大臣以下の宮廷人らを相手に例のごとき持ち前の暴勇をふるい出し屋鳴り振動のうちに、過って、どこかでは火を失し、焔、黒煙、その中を、帝は、裏の坑道を、あわただしげにご帰還となった様子――
「火事だ」
「李師々のやかただ」
廓内は、一瞬のまに、大騒動となり、かえりみれば、月の夜空は、火の粉をちりばめ、どこかでは早や、軍隊がうごいている。
かねて、内裏の叡思殿に起った一怪事から、禁軍の警戒は、密々諸方へ手配されていたもので、その総指揮には、かの高――すなわち徽宗天子の無二の寵臣、高大臣がみずから当っていた。