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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

脚絆、肌着、わらじまで、一瞬のまに解いて丸めて隅の方へ投げすてる。

とたんに海騒のような観衆の鳴りはハタと唾を呑んでやんだ。燕青の真白な肌に藍と朱彫のいれずみが花のごとく見えたからである。任原もまたそれを見て、「――おや、こいつ、ただ者ではないぞ」と、ちょっと、怯気に似た警戒を心に生じたかのようだった。

さて。どうしたのか。

土俵上の、いや舞台のうえの両力士は、いざと見えながら、なかなか取組となる様子もない。なぜかといえば、州長官閣下たちの見える桟敷からとつぜん役人や近習の一ト群れが走り出して来て、

「待った」

と、上意の声がかかっていたからである。

要は、州長官夫人の胸から出たものらしい。健気ではあるが見るからにまだ少年といってもいい花の若者。虎の前へ投げられた一片の肉ほどな歯ごたえも任原には感じまい。不愍すぎる。むごたらしい。若者にはその意気に愛でて賞品の一部だけを与え、退き下がらせよ――というありがたい仰せつけであるという。

「どうじゃな任原、そちに異存はなかろうな」

「ごわせん。だが命冥加な野郎でごわすな。おい若造、お桟敷の方へ向って、三拝九拝して引ッ込め」