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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

鴛鴦の巣は風騒にやぶられ、 濁世の波にも仏心の良吏はある事

林冲には、通り名がある。豹子頭といい、あわせて豹子頭林冲とよぶ。

生れつきなる豹のごとき狭い額、琥珀いろの眸、また顎の鋭さは燕のようなので、そんな綽名がつけられたものか。

見るからに都の武人風。装いは洒落ていた。緑紗の武者羽織は花団模様の散らし、銀帯には見事な太刀。また、靴も宮廷ごのみな粋なのを履いていた。年ごろは三十四、五か。……やがて、こなたへ歩いてくる背丈もまた抜群といっていい。

智深は、その人を莚に迎え、名乗りあってから、一盞を献じた。漢は漢を知り、道は道に通ずとか。二人はたちどころに、肝胆相照らして、

「花和尚、以後はあんたを義の兄と敬おう。武芸からも、年齢の順からいっても、あんたが上だ」

と林冲がいえば、智深もまた、

「この魯智深には、ちともったいない弟だが、そういってくれるなら、ここで義兄弟の杯を」

といったわけで、時のたつのも忘れ顔に、緑蔭の清風は、この二人のためにそよめくかとばかり爽やかだった。

するとどこかで「――旦那さま、旦那さま」と、しきりに林冲を探すらしい女の声がする。彼はすぐ莚をつっ立ち、そしてさっきの崩れ土塀の辺に、チラと見えた小間使い風の女の姿へ、