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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「しめたッ」とばかり、よくも見さだめず、走り寄って、その眼の前へ、
「待てっ、旅の者」
長巻の石ヅキを、とんと地に突いて見せた。すると、相手の男は、仰天して、荷物もそこへうッちゃッたまま、
「ひっ、人殺しっ」
と、盲滅法、谷そこ目がけて逃げ転げていった。その悲鳴といい逃げる恰好も、役人でもなし、武士でもない。林冲はがっかりして、
「ちいっ。もう三日目は暮れそうだし。……はアて、よくよく運のない俺だとみえる」
そして、何気なく、道に捨てられてある荷物へ眼を落していると、どこからともなく、一陣の殺気が、さっと彼のその横顔を吹いてきた。
はっと、振り向くと、
「盗賊っ。その荷を拾って、生命は落してもいいつもりか」
怒気と嘲笑をまぜて、言葉そのものが、すでに刃のような声だった。
見れば、先に逃げた荷持ちの男の主だろうか。
まだ三十がらみの壮者だが、顔いちめんの青痣へもってきて赤いまだら髯を無性に生やし、房付きの范陽笠を背にかけて、地色もわからぬ旅袍。それへ白と青との縞短袴をはき、牛皮の毛靴を深々と穿って、腰には、業刀らしい見事な一振りを横たえてもいる。
「あははは」