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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

道は、その日の午後、やっと一つの山の小道へかかったが、木々の葉は萎えて、風は死し、谷はあるが、水は涸れ、岩は干割れして、滴る清水の一ト雫もない。

「おお、ここらはもう、太行山脈の一嶺だな」

空身の楊志にしてさえ、息がきれた。

峨々たる山容は、登るほど嶮しくなり、雨の日に洗い流された道は、河底をなしている。万樹はあだかも刀槍を植えたようで、虎豹の嘯きを思わせる。

なにげなく足をとめて、ここまでの旅、またこれからの道のりなどを考えていた楊志が、ふと気づくと、謝執事以下、十一梱の強力やほかの兵も一つの峰の背へ取ッつくやいな、

「もう、だめだ。勝手にしろ」

「八ツ裂きにされても、うごけねえぞ」

「さあ、どうなとしてくれ」

とばかり、おのおのの荷を背から下ろして、ぐたと伸びるやら、仰向けに寝てしまうやら、ここへきてはもう自暴のやん八をきめこンでテコでも動かぬ態だった。

「あ。げて者めら」

楊志は振返って、彼らのやけくそな態度に気づくやいな、そこへ飛んでいって、例のごとくムチを鳴らした。

「だれの許しを得て休むのだ。こいつら、一寸の間も、眼が離せぬ」

「まあまあ」と、宥め役に立ったのは、梁家の執事の謝であった。