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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

“生辰綱の智恵取り”のこと。 並びに、楊志、死の谷を覗く事

すると、叱られた兵よりは、酒売りの男の方が、きッと、眼にカドを立てた容子だった。ふン……と鼻先で冷笑を見せたと思うと、すぐ担荷の天秤へその肩を入れかけていた。

「おい、邪魔だよ、桶のそばを退いてくんなよ。くそおもしろくもねえ! この炎天に、しびれ薬を売りにいく粋狂がどこにあるッてんだ、ばかばかしい」

“生辰綱の智恵取り”のこと。

並びに、楊志、死の谷を覗く事

酒売りの捨て科白は、もとより楊志への面アテだったが、兵たちの妄念を、一そう煽り立てたふうでもあった。

「待てよ。おい。せっかく銭を集めたのに」

「いやだ、いやだ。もう売らねえよ。あばよ」

「ま、そう怒らねえでもいいじゃねえか。ああ言っても、おれたちの宰領は、とんだ話のわかる人で、人情もろいところもあるのさ」

「勝手にしやがれ。人の売り物にケチをつけやがって、話のわかるお人かい。これが市や村でのことなら、ただはおかねえところだぞ」

よほど腹が立ったらしい。次第に威猛高となっていた。――と、彼方の松林の蔭から、さっきの棗商人の連中が、どやどやと馳けよってきた。そして口々に、

「なんだ、なんだ?」

と、いう弥次声。