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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「五貫とお負けしておきましょう。ここはまだ半道だから、足賃なしに」

兵たちはコソコソ首を集めあった。鼻のさきに餌を置かれた餓鬼の眼つきといった形である。喉が鳴る。鼻がピクつく。とうとう小銭の音をさせ始めた。懐中を合せて、買おうという相談になったらしい。

さっきから、じろと睨んでいた楊志は、いきなり山刀を鞘ぐるみ腰から抜いて、ずかずかと立っていき、刀の鐺で、桶を叩いた。

「こら、きさまらは、これを買う気か。――買って呑む気か」

「銭はわしたちのものですぜ」

「金はともかく、誰のゆるしを得たというのだ。ツケあがるな、こいつら」

「ツケあがるわけじゃありませんが、旦那も人間なら、お察しなすっておくんなさい。もう意地にも我慢にも……。これを見て飲まねえじゃあ、妄念が残って、腰も上がりませんや」

「ふざけるな、がつがつと、哀れな餓鬼声を出しゃがって、よく耳の穴をほじッて聞けよ。道中売りの酒なぞは、ただの旅でも、滅多に意地汚ねえ涎など垂らすものではないわ。そんな浅ましい欲心のために、まんまと、しびれ薬で根こそぎ懐中を抜かれたなどの例が、どれほど多いか、知らぬのか。心得のない奴らだ」