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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そして、逃げる彼らの背へ向って、

「阿呆。親切ごかしの、屁ッたくれ商人め。野たれ死にでもしてしまえ」

と悪たい吐いた。

さっきから見物していた兵たちは、笑いも出ずに、ただ生唾をのんでいた。食い物の恨みは元々深刻なもの。いわんや、焦くがごとき暑熱に渇いている鼻先で、舌つづみを打たれたのでは堪るまい。――しいんと、陰気な沈黙におちて、彼方に腰かけている楊志の背を、いとも恨めしげに見ていたが、ついにもう我慢ならじと、声をそろえて、謝執事に訴えてきた。

「執事さん。ご恩にきますぜ。ひとつ、楊輸送使へお縋りなすっておくんなさいな。――これからもまだ、山坂ですし、峠まで行ったところで、飲み水などありッこはねえ。どうか、あの残りの片桶をわれわれどもが買って飲むことを、ゆるすと、いわせてくださいませんか。もう腹の虫がグウグウ鳴って、おさまりがつきません」

執事の謝も、内心、意欲はおなじものだった。しかし、おいそれとは、同調顔もできないので、いかにも、彼らの哀訴を持て余したかのごとく、歩を楊志の前へ移してきた。そして、彼らの代弁にこれ努めた。厭なら、見て見ぬ振りしていてくれと、いわぬばかりな口吻である。