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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
この道のみは、聖賢の道ではどうにも割り切れない。初心な若旦那が、何かに憑かれたようなものだ。反対にわずか一ト月ほどの間に、水を得た魚とも見えたのは閻の母娘である。家具衣裳は買い込むし、髪には珠を、沓には珊瑚を、食べ物の贅沢、臙脂おしろいから香料など、母娘二ツの鏡台の飾りたてはいうまでもない。
が、宋江はそれに惑溺しきれない不幸児でもあったのだ。なるほど十九の婆惜は佳麗絶世といっていいが、その口臭にはすぐ下品を感じ出し、玉の肌にもやがては何か飽いてくる。――自然、泊ってゆくこともない。婆惜も何となくあきたらなかった。男の情炎に焦き爛れたいのに、いつも焦れッたいだけで狂炎の情に突き刺されることがない。もどかしい思いが積ッて自然、不満が醸される。艶眉がそれを怨じて見せても宋江には通じないのだから、なお焦々するし、しまいには男を小馬鹿にしたくなってきた。
ところへ、或る夕のことである。
「婆惜……。今夜はね、ひとつ面白く飲もうと思って、友達を連れて来たよ。婆さん、美味い物をひとつうんとご馳走しておくれ」
めずらしく、宋江が一名の客をつれて来た。
「よう、いらっしゃいました」