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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「ほい、また娘自慢が始まったよ。そうかい、そうかい」

「お茶化しでないよ。こっちが真面目にはなしているのに」

「こっちも大真面目さ。いったいどうするんだよ。押司さんの方は」

「おまえさん、周旋屋だろ。まかせるといってるじゃないか。大恩人の押司さんには、それよりほかご恩返しはないと思っているわけだよ」

「なるほど、ご恩返しにかえ。じゃあ、わたしも欲得なしに一ト肌ぬいでみようかね。ちょっとこの相手は、孔子様みたいで、なんだか恐くて難かしい気がするけれどね」

とはいえ、王の婆さんも海千山千。その男性観にはべつな信条があろうというもの。以後折々に宋江を訪ね、そして宋江の閑暇をよく笑わせ、やがて打ち解けた頃合いを計って、或る日、美人婆惜の執り持ち話をもちかけた。

宋江とてももとより木でも竹でもない。ふと好奇心をもったのは事実である。自分の地位で女の一人ぐらい囲っても誰が怪しむわけでもあるまい。むしろ独居の生活こそ下僚からもいぶかられている。――いや、そう思ったのは、すでに王婆の口舌に口説き落されていたものといえよう。

とにかく彼は、ふと彼に似げない心になって、つい役署の西の横丁に、そっと、近所も静かな一軒を借り求め、そこに婆惜を囲うことになってしまった。