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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「こいつあ、くさいが?」
ぴんと直感に来たものはあるが、西門慶といえば、役署の上司からして、一目も二目も措いている人物なのだ。すべては、金の力だが、署内における勢力の隠然たるものは無視できない。
「……おっかねえ物だが、強いものには巻かれろだ。口を拭いて戴いとくか」
やがて、九叔は、喪の簾を揚げて、線香臭い家へ入った。二階へ上がって、武大の女房金蓮を見ると、近所のくやみの入り代り立ち代りに、泣き腫らしている態だ。しかしながら、多年の職業的直感では「ははアん」と、わかる。西門慶のおひねりは、これだったに違いないと。
「……どれ、納棺の前に、型どおりじゃございますが、お屍を調べさせて戴きましょうかな。いや、動かさないで、そのままにしておいておくんなさい」
九叔は馴れた手つきで、物質の検査でもするように、死骸の眼瞼、口腔、鼻腔の奥、腹部、背部と引っくり返して視ていたが、そのうちに自分のこめかみを抑え出して、
「……あ。……ああ、こいつあ、どうかしてきた。む、胸くるしい。もうたまらねえ」
と、癲癇のように、床へ俯ッ伏してもがきだした。
居合せた近所の者は驚いた。