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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

もとより西門慶も、そこまでは勘づかない。ほとぼりがさめるとまた、王婆の奥に入り浸って、金蓮相手に、したい三昧な痴戯に耽った。――女も今では、誰におどおどすることもない。晩になってもせかせか帰る灯はないのだった。深間の仲は、こうしていよいよ深間の度を増し「もう離さない」「離れない」「いっそ、こうして」というような痴語口説のあられもなさに、王婆さえ、時にはうんざりするほどだった。

歓楽きわまって、哀愁生ず――とか。陽春の花もいつか腐え散って、この陽穀県の街にもぬるい暖風が吹き初めていた。

かねて、県知事の命をうけて、遠い開封の都へ使いしていた武大の弟――武二郎の武松も、はや帰路について、県の近くまで来ていたのである。だが、その道すがらも武松はしきりに、

「はて……妙だな。……いやに毎晩、兄貴の夢ばかり見るが」

と、虫のしらせか、なんとなく胸さわぎに衝かれつつ、ほとんど、何ひとつ道草もせず、まもなく県城へ立ち帰って来た。

「やあ、大儀だった。ご苦労ご苦労」

知事は満悦のていで、彼の復命を聞き終り、賞として、銀一錠を与えた上、

「ゆっくり休暇をとるがいい」

と、長途の労をねぎらった。