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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

史進、家郷をすてて渭水へ奔り、魯提轄と街に会うこと

史進、家郷をすてて渭水へ奔り、魯提轄と街に会うこと

彼らの仲間うちでも“虎は平伏した餌食は食わぬ”という諺を知っている。「――九紋龍の度量はそれなんだ」と、楊春も陳達も、朱武も以来すっかり史進に心服してしまった。

史進の方では、そんなことなど、いつか忘れてしまっている。すると或る夜の宵の口、一荷の贈り物を担いだ山賊の手下が、こっそり、史進の屋敷へやってきて、

「ご恩返しというほどな物でもござんせんが、てまえどもの志だけを、どうかお納めなすっておくんなさい。いや申し忘れましたが、山の三頭目からも、くれぐれよろしく申しました」

と置き捨てるように、おいて帰った。

あとで開けてみると、獣皮やら山の物の種々、それに三十両ほどな金ののべ棒も入っている。

史進は笑った。

「なんだか、余り貰い心地がよくねえな。だが、奴らにすれば、精いッぱいな善意だろう。まあいいや。金はまた何かいい折につかってやろう。取ッておけ取ッておけ」

ところがその後も何くれとなく、ちょいちょい山から贈り物が届けられる。時には見事な宝石などもよこした。

史進もまた、こう貰ってばかりいてはと思って、家に伝わる紅錦織を三領の袍に仕立てさせ、脂ののッた美味い羊の焼肉を大きな盒へいれて、日頃の礼にと、山寨へ届けさせた。