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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そこの平らかな岩盤を酒の場として、花栄や宋江や頭目どもが、杯を手に、風流な談笑でも交わしているかのような姿ではないか。

「うごくなッ。賊どもっ」

彼らの前に、こう馬を躍り立てて大喝したが、

「おう、秦総監、遂にやって来られたか」

誰かがそれにこう答えたのみである。驚く者などは一人もない。

「さぞおくたびれであろう。馬を降りて、あなたもここで一献なさらんか」

「ば、ばかなッ。賊ども、神妙にお縄をいただけ」

「わはははは」

その笑い声が合図だったと見える。秦明の体は竿立ちになった馬の背から抛り出され、馬は体じゅうに矢を負ったままどこへともなく狂奔してしまった。

同時に、秦明も横ッ飛びに危地を避けて、うしろへ続いていた味方の中へころげ込んだ。とたんに四面四山は耳も聾せんばかりな陣鉦、陣鼓、陣螺の響きであり山の人間どもの諸声だった。――無我夢中で秦明は兵とともに逃げなだれた。――けれどもその疾走よりも速い谷川水が彼らを追ッかけ、ついに道を失ってしまった。道が河に変じてしまったのである。

この計略たるや、すべて宋江と花栄の方寸から出たものだった。東峰と西峰にいわゆる兵法の“まぎれ”を伏せ、山の小道を“悩乱の迷路”に使い、また道を河にするには山寨の貯水池を切って落したものなのだ。