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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「えっ、舟がある?」
「たのんでみよう。……おい船頭さん、たすけてくれ。金はいくらでもやる。無事な所まで渡してくれ」
「なんだと。どこのどいつだい」
船頭の声だった。舟底に横たえていた酒くさい体をむっくり起すとともに、ぎょろと、三人の影を眼で一ト舐めして、
「乗ンな」
と、かろくいった。
「ありがたい」
拝むばかりな、あわてかたで、三人はすぐ飛びのる。李万は旅の荷物をどさりと下ろし、張千は首枷をおいて、手の水火棍(警棒)で船頭の棹と一しょに岸を突いた。
ゆらゆらと、舟はひろい水面に出る。船頭は棹をすてて櫓に持ちかえた。するともう、さっきの鋭い指笛がまた近くで闇をツンざいた。いちど行きすぎた松明やら二十人ぢかい人影は、たちまちそれと知って引っ返してきた。
「おうーい、船頭、その舟をやッちゃあいけねえぞ」
「もどって来いよっ。引っ返せ」
「返さねえと、ただはおかねえぞ。やい船頭、船頭っ」
気が気でない。生死は船頭の返辞一つにかかっている。
舟中の宋江たち三人は手をあわさんばかり、わななき声を念じ合った。
「もどるな、船頭さん」
「後生だ、もどっちゃいけない」
「あの悪者につかまったら殺される。