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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「どうも面目ございません。お名だけならあっしだって、とうに存じ上げていたんですよ。だがまさか、そんなお人が眼の前に降ッて来ようとは思えなかったんで」

張は、李俊の義兄弟のひとりで、その名は横、異名は船火児――生れは江中の島――小孤山の産だという。

この張横には、もうひとり実の弟がある。

稀代な水泳の達人で、水底十里をよく切っておよぎ、水中を出ぬこと七日七晩という記録をもっている。

そして、その肌の白さ、魚の腹のようなので、人呼んで彼を浪裏白跳の張順といった。

で、元来はこの張横、張順の兄弟は、俗に“私渡”とよばれる非公認の渡船稼業をやっていたのである。

揚子江両岸の小都市の間には、さかんに税関抜けの密輸や闇屋が往来する。それやら博奕場帰りやらただの旅人などを乗せて、いざ大河のまン中にかかると、張の兄弟は、かねてしめし合せの荒稼ぎにかかるのだった。

まず、いきなり錨をザンブと投げこんで、横が薄刃のだんびらを持ち出す。――凄文句よろしくならべて、約束の駄賃以上な客の懐中物をせびるのだ。

揚子江の上である。たいがいは慄え上がッてしまう。だが、客に化けて乗りこんでいた弟の浪裏白跳張順が「ふざけるな」