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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「泥棒っ。盗っ人っ」
張乙はあきらめきれず、逃げる李逵を執念ぶかく追っかけた。李逵はけらけら嘲笑いながら逃げては振り返ってみていたが、そのうちに、誰かにどんとぶつかった。
「こらっ、李逵じゃないか」
「あ、いけねえ。また会ッちまった、院長さんでしたか」
「なぜ人の物を盗む」
「ごめんなさい。じつは今日ばかりは、勝ったことにして、そしてさっきの宋公明さんに、ひとつ大きな顔で、おごってやるといってみたかったんで」
後ろで、宋江は笑い出した。
「かねが欲しいなら、私が上げるものを」
「いや、かねはここへ持っている」
「それはそれ、そこに追っかけて来た人のかねでしょう。返しておやり」
「ケチな野郎だ」と李逵は張乙の手へくれてやるようにそれを返す。宋江は、張乙にいった。
「だれか怪我した者はいないのか」
「ないどころか、賭場中のやつが、荒れ熊の爪に引ッ掻き廻されたようなもんで、目も当てられたありさまじゃありません。茶汲み婆まで、肘を折られてしまいましたよ」
「それはすまんな。じゃあこれを薬代にでもして慰めてやって下さい」
宋江はべつに銀子を与えて、李逵の代りにあやまった。
戴宗はつくづくと見ていたが、こんどは何も忠告しなかった。