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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

すると小舟は苦もなくひッくりかえってしまった。同時に李逵の姿も男の影もほとんど、一波の白いしぶきも揚げず、ただもっこりと江中に沈んでいった。

驚いたのは、宋江と戴宗である。――慌てて近い岸のなぎさまで馳けよって来たときは、江上の舟はすでに裏返しとなってただよい、漁師、ぼてふりの輩は、さも心地よげな眼を沖へやって、

「うまくやんなすったね、親方さんは」

「何ンたって、浪裏白跳さ!」

「揚子江のぬしみてえなものだ。あの水牛野郎も、たっぷり水を飲むことだろうよ」

と、がやがや快を叫びあっていた。

宋江は、またさらに仰天した。大勢の顔へむかってことば忙しく。

「あの肌の白い魚問屋の主人。あの人のあだ名が、いま誰かの言った“浪裏白跳”というのですか?」

「そうです、そうです。張順さんと仰っしゃいますぜ」

「それは大変だ。――戴宗どの、こいつは、しまった」

「えっ。しまったとは」

「彼が魚問屋の張順なら、その実兄の張横から私は手紙をもらっている! 江州へ行ったらぜひ会ってやってくださいと」

「や、や、や。それはさて、なんとしたものか?」

困惑と手をにぎる汗、ただ、彼方の水面へ、その眼をこらし合うしかない。