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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

しかも流罪人の筆だ! 奇っ怪しごく」

彼は手を鳴らして、女中、帳場を呼びつけ、これを壁書きした客の年齢人相などを問いただし、そして「城県人宋江作」の署名も写しとって、晩を待った。いや船に寝て、翌朝を待った。

ここらが彼の奸佞なところである。果たして、奉行の蔡九は、ご機嫌すこぶる斜めであった。

「これ黄文、昨夜見えよと申したのに、なぜ儂を待ちぼけさせおったぞ」

「は。申しわけございませぬが、天下の大事にふと心を悩まし、また万一の間違いでもあらぬよう、その下調べに、奔命いたしておりましたので」

「はて。今朝はよく、天下の大事という声を耳にする日だな」

「ほ。何ぞお手許へも」

「いやじつは、父の蔡大臣からご飛脚があって、ちかごろ都の太史院天文監が、こう申しているとあるのだ。……北斗の星、呉と楚の地を照らし、その色赤し、おそらく謀反の徒のおこる兆しならんかと」

「なるほど」

「また、開封東京のみやこ童の間にも、

山はひがしよ

三十と六つ

家木はみだすよ

水と工と

そんな意味もわからん謎めいた童歌が、近来しきりに流行っていると申す」

「いや、恐ろしいものです」

黄は、膝をたたいて言った。