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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

晁蓋もまた無事をよろこんで、この上は一刻もはやく引揚げるが得策と、みな騎馬となって、駒首を東へ回した。――宋江も一頭の馬を与えられ、その馬の背から、ひそかに玄女廟の青瓦を山腹の森に見おろしながら、

「いつかはきっと、今日のお礼詣りにうかがうでしょう。また三巻の天書、四句の天言、それもあわせて心に銘じ、終生決して忘れますまい」

と、胸の奥でくり返していた。

時に、有明けの空翔ける夜鳥の声か。あるいは山家の牧童でも歌っていたのか、ふと古調ゆかしい一篇の詩が月魄のどこからともなく聞えていた。

ぜひなけれ、天地の巡環、いましも

麻のみだれを、世に見する。

見ずや、微賤に起つ、英雄ども

波となって、山東の一角に怒るを。

天星はいまし、天に宿さず

地に降りて、それ、百八の業をえがく。

中に瑞気あり、城の一人

知らざるは無けん、及時雨の宋江。

こよい、九天玄女の天書を賜うて

月兎、梁山泊へ その人を送る。

見るべし、以後の仁と義と、礼知の風

また天に代りて、人が天兵を行うところを。

李逵も人の子、百丈村のおふくろを思い出すこと

呉用智多星は、このたびは留守をして梁山泊にいたが、宋江の無事を聞く以前に、宋清と老父が寨城へ送られてきたので、さっそく宋家のために、梁山泊中のほどよい所に、小ぢんまりした一邸を宛てがって、一同の帰りを待っていた。