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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
正業について、おふくろを大事にしろよ。こんど悪さを見つけたら命はねえぞ」
「えっ、これを。オオ大人、ご恩は一生忘れません」
「何ッてやんで。おらあ、大人なんていうお人柄じゃねえ。おう、だが一応名だけ聞いておこうぜ。てめえの名は」
「李鬼と申しますんで。へい」
「ほんとかい。苗字から名まで似ていやがる。ま、それも同郷人なら仕方がねえや」
午後の道もまだ山だった。李逵は七月の山路に歩きつかれた。酒はさめ、喉は渇く。考えてみると、前夜、朱富の店でも、酒ばかりで飯はたべていなかった。
「オヤ、小粋な女がいやがるぜ」
山の一軒家だが、酒の旗が立っている。女はざっかけ結びの髪に、草の花を挿し、李逵を見ると、その朱い唇が笑った。
「姐さん、酒はあるかい」
「おあいにくさま」
「ひどく素気ねえな。じゃあ飯を炊いてくれ。飯の菜ぐらいあるだろう」
「お客さん、待ってくれるかね」
「よかろう。一ト昼寝、涼んでいる」
小屋の横へ縁台を持ち出して、李逵はいつか蝉の声にくるまれてトロとしていた。もしこのとき、梢の栗鼠か何かが彼の顔へ胡桃の実を落さなかったら、彼の命はどうなっていたかわからない。