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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
何しても、彼はふと小用をたしに立って行った。それで気づいたことなのである。すぐ裏の台所口の外で、ひそひそ囁きあっている男女があり、女は草簪の先刻の女であるのはいいが、男の方にハッとしたのだ。今朝、峠で、おっ放してやったあの李鬼にまちがいなしだ。
「……そうかえ、まあ、危なかったわねえ!」
と、女は山猫のような眸をくるっとさせて、そして仰山に、あとの声はしばらく唾呑んでいる。
「じゃあ、本物の李逵が帰って来たんだね。あの黒旋風がさ」
「そうだよ、驚いたの何のッて。だけど口から出まかせに、ありもしねえおふくろを称って、哀れッぽく持ちかけたら、馬鹿な野郎さ、何とおれに十両くれて行っちまやがった。あははは」
「しっ……。その李逵に違いないのが、飯を炊いてくれといって、さっきから店の横で昼寝して待ってるんだよ。静かにしないと」
「えっ、奴がここへ来てたのか。そいつあたいへんだ。ど、どうしよう」
「なにさ、男のくせに、いっそ、ちょうどいいじゃないか。飯のおかずへ、しびれ薬をしのばせて眠らせてしまえば、いくら黒旋風だって」
「ア、なるほど。金はまだたんまりふところに持っているふうだった。