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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

弟の朱富は、ふふんと、辺りの顔から顔をあざ笑って、尻目にくれながら、

「おお、出かけよう。――が、待ちなよ、李逵」

「え。なんです」

「どうだ、まだ酒瓶の酒が余っているぜ。一杯ひっかけて行かねえか」

「とんでもねえ、そんな麻薬の入っているやつは、いくら俺でもまっ平ご免だ」

なるほど、すでにその麻薬の効き目だったのか。店の内や外、満地の兵たちはことごとく、ぶっ坐ったり横になったり、また或る者は、口から泡吹くをふいて、ただすこし手や足ばかりを海鼠のようにもがき合っているだけだった。

「ちッ……畜生。……謀ったな。や、やられたか」

ただ一人、こう叫んでは、起ちつ、また、こけまろびつ、必死に、あとを追おうとしていたのは、捕手頭の李雲一人だけだった。しかしすでに黄昏れそめた町の灯をかすめて、李逵、朱貴、朱富、若い者一群の姿ははや遠くのものになっていた。

町もここから先は一望の野原でしかない追分に、一ト叢の暗い夏木立の木蔭がある。そこに今朝から、家財を積んだ数輛の手押し車と、朱富の家族を乗せた箱馬車とが、心ぼそげに、待ち暮れていた。

「さあ、もう大丈夫だ。もう逃げるばかりだぞ」