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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「洒落たことをぬかすな。自体、きさまの面は嬲りものにできとるじゃないか」

「何をっ」と、鄭のこめかみに、太い青筋がムラッと燃えあがった。「――おい、もう一ぺんいってみな。州の提轄だと思えばこそ、さっきから虫を怺えていたんだぞ」

「そうか。わが輩もきさまが本性をむきだすのを待っていたんだ。もう一皮むいてみせろ」

いうやいな魯達は、蓮の葉包みの二た包みの肉を、ばっと鄭の顔へ投げつけた。肉の雨を浴びたとたんに、鄭も鋭利な骨削り包丁を持って、肉切り台を躍りこえ、

「うぬ。やりゃあがったな」

一閃、ずんぐり丸い巨体を低めて、魯達のふところへ体当りしてきた。

ぴしゃッと、大きな響きがしたのは、魯達の平手が瞬前に彼の横顔をはたきつけたものらしい。よろっと、泳ぎかけるその弱腰へ、もひとつ、

「今日の相手は、ちと違うぞ。この豚めが」

蹴足をくれて、店先から街上へ吹ッ飛ばした。

鄭は火の玉になって起き上がる。だが、立つやいな魯達の鉄拳に眼じりを一つ見舞われて「げふっ」と奇妙な叫びをもらした。――ところは状元橋の目抜き通り、たちまちまっ黒な見物人の弥次声が周りをつつむ。関西五路の顔役としては、いまさら、逃げもできなかろう。