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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
しかし眠れない。眠らんとすればするほど心炎はカッカと冴えてくるばかり。ついにまた、脚を床にドタバタさせて呶鳴りだした。
「巧雲、巧雲っ。……離縁状をくれてやるからここへ来いっ。やいっ、出て来いッていうのに、髪の毛を切って梵妻にしてくれるからここへ出て来いっ」
寝てもいられない。巧雲はまた良人の部屋へ恐々と入って行った。するとすぐ、彼女の悲鳴がヒーッともれた。しかしまたしばらくするとそれは、甘いようなすすり泣きに変り、夫婦らしい密語にしいんと密まッて、なお、しゅくしゅくと、五更の残灯もともにまたたき哭いているふうだった。
「……じゃあ何か、巧雲、おれがいったのはみんな根もない嘘だと言い切るのか」
「く、くやしい、わたし……。嘘ッぱちにも何も、まったく身に覚えなんかありませんもの。みんなあの居候めの、つくり言です、濡れ衣です」
「てえと……石秀の讒訴だというわけだな」
「そうですとも、元々はあなたが、どこの馬の骨やらしれないあんな男を連れて来て、義の弟だの、やれ私を義姉さんだなンて、呼ばせるからツケ上がってくるんですよ。もう私だって、我慢はならない。言ってしまう! ……」