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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
誰かあの蝶の如き戦士を、手捕りにして連れて来ないか!」
すると、言下に。
「おう、まかせておくんなさい」
馳け出したのを誰ぞとみれば、槍を取っては無敵と号する王矮虎その者だった。「矮虎だ、矮虎が行ったわ」と、やんや、やんやの声援である。それに応えて、敵方でもワアアッという鬨の声。はやくも扈三娘はその青毛の駒をのりすすめ、単騎、ござんなれと待ちすましている姿。
しかも、涼霄の花も恥ずらん色なまめかしい粧いだった。髪匂やかに、黄金の兜巾簪でくくり締め、には一対の翡翠の蝉を止めている。踏まえた宝鐙には、珠をちらし、着たるは紅紗の袍で、下に銀の鎖かたびらを重ね、繍の帯、そしてその繊手は、馬上、右と左とに、抜き払った日月の双刀を持っているのであった。
「……これは、いけない」
はるかに見ていた宋江は、一丈青へおめきかかった王矮虎のいつにない槍のにぶさに、すぐある一事を思いあたっていた。
元々、矮虎ときては色情に目のない性分である。その彼をして、窈窕たる美戦士へあたらせたのは、けだし人をえたものではない。事実、王矮虎は近づいて彼女の二刀に接するやいな、すでに戦意と色欲とは半々だった。