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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

そして、うちのすぐそばのふみ切りからもう一つ大きいのを越して、その次の一寸したのを越して四ツ目のすこし手前、桜がずっと生えている手前の辺の橋のところへ降りました。その黒川さんという家が一軒ぽつんと樹かげにみえ、あの辺は大変陰気です。汽車が暗い山と山との間に火の粉を散らし、おそろしい音を立てて、いかにも「火車的」に通るのも恐ろしい。その次の踏切でつい二日ばかり前人がひかれたりしてなお更。

この辺の夜の景色など覚えていらっしゃるかしら。螢は二十日ばかりおくれているそうで、大してもいなかったが、私ははじめてあんな冴えた大きい螢の光りをみたし、数をみました。私が糸で縫った紙袋にそれでも四五匹とって、かえり路は家まで二十丁余歩いてかえりました。なかなか印象的な散歩でした。多賀ちゃんが、夜の黒い大木がこわいこわいというのが面白かった。たしかに圧迫的です。私は子供の頃、開成山の暗い夜、竹やぶのわきを通るのがこわくて、おぶさっている背中でしっかり目をつぶっていた。多賀ちゃんが田舎でありながら、狭い小さい町暮しの感覚をもって成長していることを面白く感じました。

読書はなかなか有益です。