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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

三月二十九日

五円位やっておきましょうか? 越智という人のあとは四人目でお上さんの住所は分りかねるそうです。松山の学校は指田町というところにあるのですかしら。あさってあたりおめにかかりにゆきます。繁治さんの詩を一つ『文芸』にやりました。

私は林町のうしろなどへ行かないでよかった。実によかった。よろこんでいます。ここにこうしていてこそ新しい事情の新しい収穫がくっきりと身につくのです。それをひしひしと感じて居ります。

沈丁花という花の薫り、そこにも匂いますか? この辺は夜など静かな往来いっぱいに漂っています。では又。春先の風邪を御用心。

三月二十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

三月二十九日  第十五信。

午前九時前の朝の光をうけて、あなたに手紙を書くというのは、大変珍らしいことでしょう。昨晩は十一時頃床に入って、非常にぐっすり眠って、けさはおひさ公と一緒におきてパンをたべて上って来たところです。

あなたのところでは、今朝はどんなお目醒でしたか。やっぱり気分がよかったかしら。そして、永い間横になって目を開けて、朝の目醒のいろいろな情景を思い起していらしたかしら。