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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

五月九日

人間を見くびらないが甘くも見ない、しかし真に人間の力を信じている人間というものはすくないが大切な存在です。

寿江子はこの間私と行った熱川に2円の家(一ヵ月)をかりました。明日あたりそちらへ行くでしょう。この頃インシュリンの注射液は輸入統制をうけて居り、重い傷のために必要で病院でも代用品です。寿江子の糖がすこし多いので、暫くあちらで暮すつもりらしい。国男はよい折に車を小さいのにしておいたと云って居ります。ガソリン券というものをわたされました。ああいう小さいのは一日つかえますが、アメリカの馬力の大きい車パッカードその他は夜になるとガソリンがなくなります。バスやタクシーの少なくなる不便を電車の長時間の運転で補われる由です。ここに住んでいてよかったと思います。省線の価値は大したものですから。達ちゃん達もこれまでのようにはトラックが動かせますまい。紙がなくなったので今日はこれだけ。私は今文学史補遺的仕事をして居ります。半期ずつまとめての通観です。では又

五月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 山口県熊毛郡島田村より(封書)〕

五月九日

島田の家の表通りに近い方の二階の机でこれを書きはじめました。