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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

八月二十二日

そのうち送られた分は凡そ百二十冊ばかりです。

――○――

これは本の調べについてだけの分。手紙は別に。

八月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

八月二十二日 月曜の夜  第四十四信

光子さんが三ヵ月に亙る岩手と北海道の絵の旅からかえって来て、きのうから泊っています。今風呂に入っている。私は二階。

雨がひどく一しきり降ってやんで虫の声がしている。そこのまわりの腰ぐらいの高さある草むらの中でどんなにこういう虫の声がしているかしら。虫の声はそこへも聴えているかしら。眼をあいて横になっていらっしゃる耳にきこえているだろうかしら。

きょうは、まるで電話が途中で切れて、もうつながらないままボックスを出て来るような気持でしたね。こういうのは、又こういうのでいかにも困る。私としてこう云いたかったのだとか、或は、貴方のおっしゃる意味はこうだったのだという、考えて分ること、考えて筋の立つこと、そういうことが話しのこされたのとは又異います。何という独特な舌ざわりでしょう!

私たちの話は細かいところまでふれつつ、その細部を穿って大きいものに触れている方法なので、金や本や衣類の用向きの形はとらないから、日常必須の用件とうつらないのでしょう。