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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

四月五日朝

「若い人」(映画)の女主人公をやって好評であった市川春代が春香にとび入り、赤木蘭子を対手の男にしてトムさんレヴューばりです。まだ見ない。近いうちに行きたいと思って居ります。原泉、病気をおして春香のおふくろさんをやって居ます。どうかお元気で。きょうもこれで余り暖くもないようですね。又近いうちにいろいろと書きます。

四月五日朝 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

四月四日  第十六信

落付かない天候ですが、ずっとお体の調子はつづいて平らかですか。けさおきて、下へ行ったら、例の茶箪笥の上に、桜の花の枝がさしてあったので、おやまあ、どうしたの、と云ったら、往来でどっかのお爺さんが太い枝をおろしていたのの、あまりを貰って来たのだそうでした。仄かに匂う。何年も前、国府津で、四月六日の朝、長テーブルの青銅の瓶に活けられていた奇麗な山桜の房々とした枝を、忽然と思い出しました。枝の新鮮な艶を帯びた銀茶色がやはり似ている。花はずっと貧弱だけれども。それから上へあがって、物干しに上って四方の景色を眺めたら、あちらに一本、こちらに三四本と八分通りの桜が見えました。そこには桜の樹はなさそうですね。