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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

本の御注文のこと、これはお話でも分ったからかえったらお送りいたします。二葉亭は私が特に入用でもないから、やっぱり来た毎にお送りしましょう。中村光夫も二葉亭論のときはいくらか見られたが昨今はどうも。書き下し長篇小説も実際には従来の意味での通俗小説めいたものになってしまっています。阿部さんの幸福もその一つであるが、作者は漱石を狙って「それから」や「こゝろ」を念頭において公荘という人物を一ヶの媒介体として現実諸相を反映させようとしているが、「心」の「先生」や「それから」の代助が文化人として、人間として習俗に対して求めて居り主張していたものが何であったかを理解しているものには、今日の公荘が只のガラスでものをあれこれうつす(判断せずに)ものとしてだけ出ているのが、つよい時代的な特色として見えます。インテリジェンスが只ものわかりよさ、あれもこれもさもありなん式の傍観性としてだけしか物の役に立たないでいるところ。文学が豊饒になるためには実に広い大きい幾多のものが必要であると痛感します。長い小説は決して安易にやっているのではないのです。「伸子」などでも本にしたときすっかり通して手を入れ、完成させた、そのような程度のことを云っているのです。