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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
三月一日夜
格別な智慧も出て居りません。
この頃の暮しを利用して体を丈夫にしようとしてお客でもないときは必ず十二時前に寝るようにして居ります。朝もしたがって早く徹夜は今こそ全廃です。熱川からかえってから皆元気そうになったとほめてくれます。大家さんが垣根と門の腐ったのを修繕させている、大工の音。あした、ではお目にかかって、又いろいろ。よく風邪をおひきになりませんでしたね
三月一日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月一日 第十信。
きのうも今日も夕方から風が出たが、いかにも春めいた日でした。うちのひさはすっかり上気せて、それも何だか春めいて見えました。
きのうは久しぶりでお会いして、あなたの着物の召しようがくつろいでいたのが目についた。三月に入ると火の気のないところの大気は本当にちがってきますね。やがて夕暮が美しい薄明になって来る、そしてエハガキの色どりが奇妙に鮮やかに活々として来る。今年は季節のうつりかわりが沁々感じられて、ああ春になったとよく思います。
きのうは、うちの話が中途でポツンときれてしまいましたから、先ずそれをつづけましょう。前便で大抵書いたと思いますが、家はなかなか簡単にかわれません。