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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
の扉の原画がかかっていて、その雪解の川水を描かれている薄灰色のような色や白っぽい額縁と菊の色とは大変よくうつりました。お久さん、マアきれいですこと、いい配合ですねとよろこんでいる。赤いポンポンダリアを三本買って来たのを、お久さんが土産に持って来た白樺細工の掛花瓶にさし、一本だけお久さんにやった。ポンポンダリアはまんまるくて、赤くて、暖かそうで、二輪並んで插っている。こうやって書いていて、微かに菊の匂いがします。そちらにどんな菊があるのでしょうね。黄菊か白菊かの筈だけれども。そして、やっぱりこういう日差しの中で微に匂い、あしたの待ち遠しい心の上に薫っているのでしょう。
去年も一昨年も多勢よって御飯をたべました。その前の年は、登戸の方へ出かけた年。本年は、不思議なことで、小母様母子と私とです。この間うちからつづいて、ごたごたしつづけたので、きょうがこんなにしずかで、菊の匂いをまいて、二人でいられるのが却ってうれしい。お二人があちらはあちらで満足して、出かけていらっしゃるのもいい心持です。
いろいろな年のいろいろな御誕生日がめぐり来りますね。こうして、くつろいで、原っぱの上に濃くおりている夜霧や、その夜霧を劈いて流れている工事場の電燈の光の色やを思い出すのも愉しい。