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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
三月八日
きょうの手紙はどっちかというとゆったりした気持のものだからついでに書きますが、あなたは眼というものの微妙さをおどろき直すような感動でお感じになったことがあるでしょうか。私はきのう深く其を感じて来ました。こんな小さい瞳の中にあなた全体が入るのですもの。瞳から入って心にそっくり活きている。何というおどろくべき仕組みでしょう。眼ほど謂わば宇宙的な部分は人間の体のどの部分にもないと思う。眼のむさぼり、眼の食慾、眼のよろこび 眼から眼へ流れるものは無辺際的なニュアンスと複雑さと簡明さをもっている。私はよくよくそばによって、あなたの眼の裡にうつっている自分を見たい。私がそうやってよくよく見ているとき、その私の眼の中に近く近くあなたがすっかりうつっている。何というおもしろさでしょう。見ることのよろこびが余り大きいと、びっくりして私は見得る機能に対してまで新しい珍しさを感じます。
すこし又熱ぽいかもしれないが時候が今ですから気になさらず、どうか呉々お大事に。
三月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月八日 第十一信
この間三四日何と暖たかだったでしょう。