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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

十分にはわからないところもある。そうかと思うと、覚えず愉快で机をうつようなところもある。数学の公理理解における観念性のところなど。数学がわからなかったこと(わけ)がよくわかります。ところで、あなたは、数学がお得意でしたろうか、そうでもなかったでしょう? 数学の教授法の進歩の歴史の中には確に深い意義がひそんでいます。

さて、段々と進んで来て、科学の第三の部類について語られているところに来たら俄に息が楽になった。自然科学に関する知識は何と貧弱でしょう。いつか、狭い部屋暮しの中で『史的に見たる宇宙観の変遷』という文庫本をよんだときにもそう思いましたが。その本からホンの一滴二滴のこったものが、それでもいくらか今思い出されて役に立ちます。

十五日

あなたのところからこの頃の日没の空が見えるでしょうか。きょう上落合のところを栄さんと歩いていたら、重く濁った太陽が、低い地上では靄の湧いた樹々を黒く浮上らせながら沈んでゆくのを見て、シベリアの景色、バイカル湖のあたりや、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の日没を思い出しました。栄さんのところへは、十七日の用でよったの。