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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
お見うけしたところ、やはり大分御疲労です。ずっとおやせになっています。それでも、頬っぺたに薄すり血色があって、心臓のお苦しくならない限り、おとなしくて居られます。心臓の苦しいというのは、心悸亢進するらしいのです。脈が非常に速くなり、百以上。そして結滞もするらしい。そういうときは鎮静する迄お苦しみだそうです。きのうも夜あたりそういう風におなりなさるまいかと大分心配したが、いいあんばいに平静におねむりになりました。
達治さんは元気で出かけました。けれども、何も先のことが判っているわけではないから漠然としたところもあって、きのうは島田のステーションの端から端まで溢れるような見送りをうけて出て行ったら、後から私は涙がこぼれそうでたまらなかった。東京からクレオソート丸を千粒ほど、キニーネを二百粒、クリームとなっている一寸した消毒薬を三チューブ買って来て持たせました。急に腹巻をきのうこしらえて、それもおなかに巻きつけてやりました。下じめも十五ばかり新しくつくってもって行かせました。七日の朝ついたら、何もしてない風で、お母さんは、何か薬ども持たしてやりたいが、と云っていらしたところだったので、少し持って行ってようございました。