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ひきょうのにちりんき
秘境の日輪旗
蘭 郁二郎
「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页
「あっ!」
クラパは答えの代りに、悲鳴をあげて、櫂を、流れにとり落した。
風を切って飛んで来た槍が、ぐさりと左の腕に突っ立ったのだ!
艫の方に坐っていた謙一は、さっきから、膝にのせた地図に見入っていて、気がつかなかった。
槍は、舟をやり過して、後から謙一を狙ったらしく、咄嗟に身をかわした謙一の前にいたクラパの腕に突き刺ったのだ。
「体を伏せろ!」
謙一はピストルを握りしめて、対岸をにらんだ。
ゴム林と、チガヤの高原だ。ぼうぼうと河岸に覆いかぶさったチガヤは、襲撃者の身をかくすのにおあつらいむきだった。
それに、日没にも間がないらしく、河の面には夕焼を映した、たそがれがしのび寄っていた。
チガヤの間から、頭をもたげたものがある。一つばかりの数ではなかった。
そうするうちにも、舟は、下流に押し流されていた。
つづけさまに二、三発、狙いを定めて、だーん、だーん、と引金をひくと、たしかに手ごたえがあって、草むらの中に、鋭い叫びと、うめくような声がおこった。
相手は別に、追いかけて来る様子も見えず、舟との距離が、しだいに遠ざかって行った。
不安な一夜
不安な一夜であった。