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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

ドリアンの夜

「これが日本人の国民学校だったんだよ」

校庭に椰子の樹の茂った白い三階建の建物を謙一が指さした。風通しのよさそうなヴェランダのついた小ざっぱりした校舎だった。

「宿へ行ったらさっそく、すばらしいものを御馳走してやろうと思うんだが、何だかわかるかい」

「ライスカレーでしょう、マレーの名物の」

英夫がいった。

「いやあ、そんな安っぽいもんじゃない、イギリスの女王が、それをとり寄せるために、わざわざ軍艦をよこしたというくらいに豪奢なもんだよ、ふっふっふ」

謙一が、ひとりでにやにやしていた。

――インド人そっくりだなあ!

英夫も祥子も今更のように謙一の黒い横顔をつくづく見直した。

ドリアンの夜

海岸の波止場に近いビルデングの一室――、この戦争の前から、日本のある会社が持っていた建物だった。

窓から吹きこんで来る南の風は、昼の暑さにくらべて、初夏の風のようにさわやかだ。

食卓を中にして、メロンのような電灯の光に浮き出しているのは、若々しい日本の青年にかえった謙一と、平林、鳥尾の両大尉、それに英夫と祥子の五人だった。

戦争のさなかに、しかも、生々しい新戦場の一室で、こんな楽しい夜を過せようとは英夫も祥子も、夢にも思っていなかった。