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ひきょうのにちりんき
秘境の日輪旗
蘭 郁二郎
「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页
椰子のある島
「天皇陛下万歳! 皇軍万歳!」
英夫は職責をつくして船と運命をともにした船長が、最後に、そう叫んでいるような気がしてならなかった。
激浪とのたたかいが、直ぐ英夫のまぼろしを吹き消した。
「あっ!」
と、叫んだ祥子の声を直ぐ耳許で聞いたからだった。
夜目にも、もの凄い横波が、廂のように蔽いかぶさったかと思うと、次の瞬間にはボートはひとたまりもなくひっくりかえってしまったのだった。英夫と、祥子は無意識のうちにしっかりと手をにぎりあったまま、激浪の中になげつけられた。――宮崎運転士が、必死の力をふりしぼって差し出した手も、空しく押し返されて、ひとびとは、それっきり、はなればなれに遠ざかって行った。
椰子のある島
顔も手も足も、煎りあげるように熱い南の陽が、照っていて、ゆるやかな、ひだをたたんだ波の上を、生あたたかい微風がかよって行った。
水の色は碧玉のように透明で、紅や青の背をならべた魚の群が、直ぐ足もとをすいすいと泳ぎまわっていた。
これがあのあらしの海とおなじ水でつながっているのかと、不思議に思われるくらいだった。
たった一艘のボートまでひっくりかえされてしまった、あの時のことを思うと、いまでもぞっとする。