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ひきょうのにちりんき
秘境の日輪旗
蘭 郁二郎
「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页
船長の最期
「大丈夫かしら? もの凄いあらしになって来たけど」
さすがの祥子も心細くなって来たらしく、不安そうに暗い電灯を見上げた。
「絶対大丈夫とはいえないさ、その時はその時で最善をつくせばいい、臨機応変にやるんだよ」
英夫は揺らぐ床から、じっと船窓の外を見すかした。
かすかなエンジンの響きと、激浪の噛みあう音が、体に伝わって来るだけで、何も見えない。――おそらく、墨汁を流したように暗澹とした空と巨鯨のように起き伏した激浪が視界を蔽っているに違いない。
船長の最期
不意に、どしん、というような衝撃――全速力で走っていた急行列車が、一ぺんに停車したような衝撃と、百千の大岩石が、一時に落下するような、もの凄い音が聞えた。
それと、一緒にぐ、ぐ、ぐ……と、千鈞のおもりを一時に吊り上げられたように、舷側が傾いて行った。
と、巨大な牛の断末魔の鳴き声にも似た、汽笛の音が、はげしい風に吹きちぎられながら鳴りひびいた。
つかれきっていたのだろう、吊床の上で、ぐっすり眠っていた英夫と祥子は、ただならない衝撃と汽笛の音で目をさました。
床がひどく傾いていて、圧しつぶされたようにゆがんだ扉の隙から、はげしい風がびゅうびゅうと吹きこんでいた。