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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

真夜中の船客

大尉は腕組みをしたまま、じっとテーブルの上の地図に目を落した。

香港攻略戦で、百千の皇軍が血を流したビクトリアの峰、オーステン山兵営のあたりには日章旗がはためいていた。

砲台という砲台、兵舎という兵舎が、皇軍の猛攻に砕きつぶされたのに、海岸のビクトリア街から、緑の森につつまれた山腹の家まで、これが生々しい戦場だとは、どうしても思われないような、ととのった街にかえっていた。

真夜中の船客

かわいた風が、唸りをあげて、鋪道の紙屑やボロきれをさらって行き、直角に突き出された横文字の看板が、二十日鼠のようなキーキーした音をたてている――夕方からは、それに、雨もまじって、要塞砲のとどろきにも似た波の音が聞えた。

一日も早く、シンガポールの兄のところへ――英夫の心は急いでいたが、おあつらえむきの飛行機はもちろん、船も、この時化では当分見込みがなかった。

英夫は、平林大尉とおなじ宿の窓から、あらしの街をながめながら、ただいらいらするばかりで、どうすることも出来なかった。

大尉は、あっち、こっちと、いそがしくとびまわっているらしく、朝、家を出たきりで夜になってもなかなか帰って来なかった。