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ひきょうのにちりんき
秘境の日輪旗
蘭 郁二郎
「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页
不思議な客
たという。
「祥子ちゃんのことをききたいのかなあ……」
祥子のことだと、英夫は、東京を引きあげて行った事情も、商売がうまく行かなくなって、かなり不自由な暮しをしなければならなくなっていたらしいことぐらいしか、くわしいことはなにも知らない。そうしたことは、小母さんよりも知らないはずである。田舎へ行ってから、その後、どうして暮らしているのか、なんにも知ってはいないのだ。
「ちぇっ!」
英夫はすっかり当てがはずれて、がっかりしてしまった。
――ああ、マレーの街々も、ボルネオも、セレベスも、次々に皇軍の手に従えられて行く、シンガポールさえも余命いくばくもない頃なのだ。兄さんは一体僕に何を手伝わしてくれるというんだろう。
そのうちにアメリカや、イギリスが参ってしまって、英夫が、兄を助けて、活躍する場所なんか、なくなってしまいそうな気がするのである。思えば、大東亜の南方を、自由に駈けまわって、活躍している兄が、うらやましく、居場所も知らしてくれず、約束も果してくれないのがうらめしかった。
不思議な客
「やあ、河井中尉殿の弟さんでありますか」
英夫が玄関へ出て行くと、小母さんが話した、今朝の不思議なお客が立っていた。