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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

秘密の地下室

「ちぇっ! さんざん手間どらせやがって、行っても宜しいもねえもんだよ」

趙は、ペッ! とつばをはいて、憎々しげにつぶやいたが、巡警には聞えないらしかった。

路地を曲って、巡警の姿が見えなくなると、急に猫なで声で、

「ねえちゃん、途中であんな工合に何かきかれたって、何もいいっこなしだよ、せっかくお前さんをかくまって、連れて行ってやっても、途中でばれるとうるさいからね」

「ええ、大丈夫よ」

趙の後にいた少女が、はっきりした日本語でこたえた。

「香山飯店」の例の剥げちょろけた看板が、雨のしぶきで、歯ぎしりするような音をたてている。

趙は、ひととおりあたりに目を配って、路地に人のいないのを見すますと、観音開きになった香山飯店の扉に少女を押し入れ、自分もすばやく中にすべりこんだ。

秘密の地下室

煤けた、かびの臭いとも、埃の臭いともつかないような、妙な臭いのしている部屋の中にお盆灯籠のような、真鍮の吊ランプが一つ、ほの暗い光をなげていた。

酒樽が転がっている。油紙に包んだ肉のようなものがぶら下っている。埃だらけな棚の上にも酒壜が並んでいる――。

ランプの真下にあるテーブルを囲んで、三人の影が、ボソボソと何か低い声で話し合っていた。