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ひきょうのにちりんき
秘境の日輪旗
蘭 郁二郎
「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页
一枚の白い紙か、白い布きれに、滑稽なほど小さな赤い丸をかいた旗が、どの家にも出してあった。
皇軍が香港を占領してから、急にめいめい勝手に作ったもので、それでも日の丸の旗のつもりなのである。
戦争の間、どこか安全な場所に避難していた支那人たちも、皇軍が入城してからは安心しきったように、めいめいの家に帰って来ていた。――日本軍は軍事施設以外は爆撃も砲撃もしなかったので、町も建物も、すこしもいたんでいなかった。
食べもの屋も雑貨屋も古着屋もぽつぽつ店を開きはじめた。
戦争の前までは、夜通し店を開いているこの辺を酔っぱらったイギリスやオーストラリアの兵隊がさんざん乱暴をはたらきまわって、
「ちぇっ……いくらおとくいのイギリスの兵隊さんでも、あんまりひどいや……」
と、支那人に爪弾きされたものだ、が皇軍が入城してからは、酔っぱらいやごろつきも姿をかくしてしまい、殊に夜などはひっそりとしずまりかえっていた。
まして、こんなあらしの夜などは――。
町角に皇軍の市街警備を手伝っているインド人の巡警が、カーキ色のターバンを巻いた頭から濡れ鼠になったまま立っていて、怪しげな通行人を呼び止めている。