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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

大尉は入って来るなり、いきなり上着をぬいで、寝間着に着かえながら、

「だめだ、たった一隻あるにはあるが、貨物船で途中がつらいからなあ」

「どこへ行くんですか、その船は?」

「シンガポールへ行く船だ」

「えっ! シンガポールですって、じゃあおあつらえ向きですよ」

「こんなことをスパイにでも嗅ぎつけられたら大変だが、急ぎの軍需品を積んで行くのでこういう時化でも出帆するそうだ。紀ノ国屋文左衛門というところだな、はっはっは」

「で、いつ出帆するんです?」

「あすの朝、夜明け前とかいっていた」

「じゃあ、ぜひ僕を乗せて行ってくれるように頼んで下さい、荷物の上だってなんだって平気ですから」

「本当に行くつもりかね!」

大尉はしばらく、呆れたように英夫の顔を見つめた。

「途中でへたばったって知らないぜ」

「大丈夫です。御心配はかけません」

「よし、じゃあ、これから船へ行って、じかに船長にかけあおう」

大尉は一たん着かえた洋服をまた着なおすと、二人であらしの街へとびだした。風がまだ鞭のような音をたてて荒れ狂っていた。

「これだ!」

桟橋に繋留された、目的の貨物船ははげしい風の中に、さかんに黒烟をあげていた。