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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

兄の友達の、鳥尾軍医大尉だった。

「ニュース映画でも見に行って来たのかね」

「それどころじゃありませんよ。僕、忙しいんですから」

「あっはっは……忙しいのはお互いさまだが、参考になるから、自分もこれから見に行くところだ……ときに、兄さんから、たよりがあるかい?」

「なんにもないんですよ、まい日待ってるんだけど」

「そうだろうそうだろう、自分の想像だが、大活躍しとるらしいな、羨しいよ、じっさい、そのうち家へ遊びに来んか、じゃあ失敬!」

大尉は軽く手をあげると、雪のかかったマントを、一とゆすりゆすって、さっさと電車通りの方へ行ってしまった。

英夫の家へ行く、路地の曲り角に、低い石の透垣をまわした、洒落れた家がある。――二、三年前まで、英夫の同級生の、祥子たち一家の住んでいた家だった。京橋に南方相手の大きな貿易商、園部洋行を経営していた園部家の本宅で、英夫の家とも親しくしていたが、商いに失敗してから、主人公も亡くなり、今は東北の田舎に住んでいるはずだった。

その前を通ると、いつも祥子が弾いていた、ピアノの練習曲が聞えるような気がするのだったが、門口には、今は見も知らない人の表札がかかっていて、さびしかった。